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キノの旅
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読み仮名: きののたび / 英語タイトル: Journey of Kino (Kino no tabi)
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2008/06/28
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by
asuka
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最初はアニメのほうから入ったのですが・・・。
漫画と小説のあいのこみたいな偏見があったライトノベルを初体験するきっかけになりました。
作者の時雨沢恵一氏自身、そんな、ライトノベルの軽さそのものを遊んで(悪ふざけて)いるような、
いろんな形式を「遊んで」いる本です。
無国籍な感じというか、本の中の旅人的な本、流浪的な、無所属な雰囲気を感じる本です。
その存在自体が、旅人的な、アンチ城壁な本にも思えます。
・
社会、世界、言葉、小説、本、(あとがき)、
あらゆる形式や固定観念をパロディ化して遊んでいる。
形式の破壊、寓意、ナンセンス、シュール、戯画、というか、
時雨沢恵一氏の「壊れ」っぷりによる、固定観念の崩壊感を個人的に楽しめる本です。
・
・
内容は、人間の固定観念や社会通念、
誰もがいつのまにか、あたりまえのもののようにして飲み込んでいたもの、
その言葉裏に隠された欺瞞やエゴをあぶりだすために、
そうした社会通念や形式を単純図式化して書いています。
キノが出会う一つ一つの国や旅人は、今の社会や人間の、矛盾や疑問のひとつひとつ。
・
社会や人間のエゴをむきだしにし、それを指摘し、
今の社会や人間を風刺しようという気負いも感じられないではありませんが、
あくまで飄風とした旅人の視線を保っていると思います。
「キノの旅」の目的は、一つ一つの人間の業やエゴ、社会通念の矛盾、
そういうものも、「世界の美しさ」として、正しいか悪いかではなく、
そういう矛盾そのものと出会うために旅をする旅人の視線を保つことにあると思います。
・
何かが正しい、悪い、というルールは、
それぞれの「国(人)」がその国であるための城壁であって、
常に城壁の外に身を置くキノは、そうした「壁」を持たない。
社会通念や社会常識、その国で生きていくために、
誰もが国の壁の内側で、一人一人の内面で共有している「城壁」。
そういう壁(常識とか)の壊れた旅人キノが、いろんな壁を壊す面白さの小説だと思う。
・
何かが正しいといい、悪いという、誰もがいつの間にか丸呑みしていた、
社会の中の「なんとなく」、お約束、共同概念。
なぜか、誰もがいつの間にか当たり前に見做すようになり、
自分もいつの間にか、当たり前のように嚥下している「なんとなく」は実は、
思考に健康被害ダメージを与えるほどの「異物」としての城壁ではないか、
それは胃を無思考状態にして、反芻させるだけのものにするものではないか。
・
・
城壁を持たない、非情で過酷で、自由なアウトロー旅人の視線で、
ものごとを内側からしか見れず、壁の内側に塗られた青いペンキを、
いつのまにか「本当の青い空」だと思うようになっていた閉塞感を覚える読者に、
城壁の外からの視線を持ち込み、もうひとつの「本当の青い空」、
壁の外側の空の青さを感じさせるための、からくりとたくらみに満ちた小説。
・
どの空が「本当の青い空」かといった判断をせず、
誰にとってもその人自身の「本当の青い空」があっていい、というスタンスでいながら、
ただ、虚飾の壁の外のキノが見る「本当の青い空」は、正しいか悪いかじゃなくて、
ただ、紛れもなく美しい、ということを、感じさせて伝えようと意図する作品だと思う。
・
自分でも気づかないうちに内在させている、国の城壁の怖さ、
壁の内側に塗られた青いペンキを「本当の青い空」だと思い込んでいる、あるいは、
思い込まなければならない、人の哀しさ、
自由な旅人の目を通して見る、城壁の外に広がる「本当の青い空」の、美しさの衝撃、
そういう物語を全部ひっくるめての、
キノが旅する「the Beautiful world」なのだと思います。
・
・
私が身を置く「社会」と、社会に身を置く「私」の中で、
いつの間にか網の目のように張り巡らされ、絡めとられていた、
一つ一つの固定観念や形式、共同体として共有する価値観、
「みんなと私にとって同じ一つの、本当の青い空」という「縛り」。
・
その結び目の一つ一つが、わかりやすく単純図式化して答えを出されたような、
この国の外から来た、旅人のような作品によって、自分の中の枠を壊されるような、
結び目を解かれるような爽快感、解放感、気持ち良さがありました。
・
自分の内なる束縛状態の気づき、そこからの解放を、読む過程で、
読者に体験させようという意図に満ちた小説だと思います。
それが成功しているかどうかは、受け手それぞれの、
内的経験が判断するしかない。
・
・
個人的には、出来の悪い個人的な思想や感情、
社会的な思想を押し売りするだけの役割になっている、
現在の「本という社会的なもの」の、ファッション的な虚飾の存在よりはよっぽど、
読者自身に自分自身を体験させようと試みる、小説の正しい役割を持つ、
物語の本当の力を持っている本だと思う。
・
「なぜ人を殺してはいけないのか」という、一時期流行にもなった感のする言葉に、
もっともユニークな形で答えた作品。
今の社会の虚飾性とおふざけに対しては、
これくらいのパロディと戯画が必要なのかもしれないと思います。
・
・
世界も人間も、決して美しいものでない。
でも、美しくない、という否定語を語り、否定すらをも肯定してしまえる、
価値観の転倒と、価値観の翻弄を行うのも、人間で。
そうした、価値観に結び目を作る作為とポーズを排し、矛盾も否定もひっくるめて、
ありのままの人間と世界を認めていったとき、
あまりにも煩雑な観念に溺れていた、いたってシンプルな真実という、
美しいものが見えてくるかもしれない。
・
「世界は美しくなんかない。そしてそれ故に、美しい」
という、反語に投げかけられる反語、矛盾に対する矛盾、
みたいなこの言葉が、この作品を全て言い表しているように思います。
最近、「悪者がいない作品」という言い方がされていますが、
「キノの旅」は、究極の、「悪者が誰もいない作品」だと思います。
・
・
関係ないですが、今時、ブログをやらない作家は珍しい。
ネットの旅人よろしく、掲示板にだけは流れているようですが・・・。
時雨沢恵一氏自身、バイク乗りだったり、戦闘メカ・武器マニア(おい)だったりと、
面白いブログになりそうですが。
ブログなどという小手先のものでは収まりきらない、
ブログという形式すら壊しそうな、(壊れ)作家のような気もします。
関係ないですが、ユルい男性作家という感じが、たまに乙一氏とかぶってしまいます。
・
黒星紅白さんの寓意的な絵も好きです。
こまっしゃくれた子供のような、憎めないエルメスが好きです。(そのうち表情とかが見えてきます。)
生態の異なる人間キノとモトラド(注 ・二輪車。空を飛ばないものだけを指す) エルメスとの、
少しズレていて、連想能力の勉強にもなるやり取りとか好きです。
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